研究概要 |
前年度までに,厚板(CT試験片等),薄板,中実丸棒,中空丸棒を伝播するそれぞれ実体波,ラム波,誘導波の特徴と,これらを用いるAE原波形解析法と音源位置標定法を構築し,高強度鋼の遅れ破壊,ステンレス鋼のポリチオン酸割れと塩化物応力腐食割れ,黄銅のアンモニア割れ等の環境劣化割れのダイナミックスを明らかにするとともに,メカニズムについての考察を行ってきた.AE解析法として残されている材料形状は,角棒のみであるので,角棒を伝播する誘導波の特徴を明らかにするとともに,原波形解析を行う方法を確立した.角棒を伝播する超音波は,ほぼ中実丸棒を伝搬する誘導波に似た特徴を有していることから,Lモード波から軸方向音源位置標定が,LとFモード波の振幅から断面内の音源位置標定が,Lモード初動波形に対するシミュレーション(実験的応答関数を使用)から破壊のダイナミックスが計測できることを明らかにした.またこの手法を用いて,高強度鋼の遅れ破壊と,焼入れ鋼の純機械的破壊における微小破壊のダイナミックスを比較した結果,遅れ破壊の生成速度は純機械的破壊のそれよりも遅い破壊であることが明らかになった.また,2相ステンレス鋼のSCCと遅れ破壊のダイナミックスの解析,水素を吸蔵するTi-P合金の水素膨れと水素化物生成によるAEを検出した.特に,Ti-P合金では,水素ボイドが発生するが,ボイドの発生時に脆性破壊よりもはるかに大きな超高速(高周波数)のAEが検出され,これは水素化物から放出された水素の突発的膨張の可能性があることなど,金属中における水素の挙動に関する新しい知見をえた.2相ステンレスは,SCCと遅れ破壊の両方を,塩化物溶液でも発生するが,両者で電位振動やAEが著しく異なること(未発表)が判った. AEを実構造物の環境劣化割れに使用する上でもっとも大事なことは,音源位置(破壊場所)の推定である.最終年度では,大型装置(貯槽タンク)や複雑構造物(橋などのトラス構造物ジの音源位置を決定するための手法,とりわけ,液中伝搬縦波,モード変換派(ラム波から液中伝播縦波へのモード変換波)を用いる音源位置標定アルゴリズムを完成させた.
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