本年度は、疎水性表面間力のメカニズムの一つに考えられるキャビティまたは気泡の存在について、その確認と実態を把握するため、種々に疎水化改質したシリカ板の水中での原子間力顕微鏡観察ならびに、同様の系を想定して分子動力学シュミレーションによる検討を行った。その結果、以下のことが明らかとなった。 原子間力顕微鏡のコンタクトモードでは、表面は平らで、疎水改質の有無による違いはほとんど見られなかったが、タッピングモードでは、疎水化表面において高さ50nm程度のドメインが観察された。同時に得られた位相像のおいても、対応する場所に、相互作用が周囲と異なることをしめす像が得られた。表面の疎水化度が高いと、ドメインは、その一個当たりの大きさが増加するとともに全体の被覆率も増加した。また表面の凸凹荒さを大きくすると、ドメインの付着個数は増加するものの、一個当たりの大きさは減少し、全体の被覆率も減少した。以上により、ドメインは気泡であると推定された。 水分子をLennard-Jones相互作用型の粒子、疎水性表面を粒子とは排除体積効果以外に相互作用しない平滑な表面、すなわち剛体壁としてそれぞれモデル化した。このモデルと分子動力学法およびモンテカルロ法を用いて、「疎水性表面間の水分子集団」のシミュレーションプログラムを開発した。その結果、(1)表面どうしが水分子5個分くらいまで接近すると表面間隙内の水は次第に蒸発、すなわちキャビテーションが起こる、(2)それと同時に表面間には引力が働き、その強さは表面間距離が減少するにつれて増大する、ことなどを見出した。しかし、引力が働きはじめる距離は高々2nmであり、これは原子間力顕微鏡などによる測定値(数100nm)に比べると極端に小さい。この違いは、表面荒さと溶存ガスの影響をシミュレーションでは考慮していないことに依るものと考えられた。
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