本研究の目的は、機能性材料として多くの可能性を有する無機膜の透過機構を解明するとともに、その分子設計の方法論を試行的に確立してゆくことである。 分子シミュレーションでは、細孔構造の異なる炭素膜の計算に引き続いて、入口出口のベランダ構造が分離選択性に及ぼす影響を検討した。その結果、ベランダがあると入口出口の透過抵抗が小さくなる場合(メタン)と、出口の透過抵抗が大きくなる場合(エタン)が観測され、分離性能をよくする構造のあることがわかった。また、純シリカZSM-5膜へのメタン、エタンの透過シミュレーションを行うとともに、柔かい分子の透過プログラムを開発し、ブタン異性体/ゼオライト膜の透過シミュレーションを行っているが、計算時間が長いので、プログラムの並列化を行っている。 膜表面の化学修飾の研究では、量子化学計算を用いて決定した分子間ポテンシャルの安定化因子分解から、主要な因子を増幅するような原子を選び出すというルールに従って、TiO_2表面の修飾を試みた。試行した分子はNH_3とCO_2である。NH_3-TiO_2系ではNH_3分子からTi原子への電荷移動があり、分子分極も大きくて、修飾するまでもなく化学吸着状態であることがわかった。CO_2-TiO_2系では物理吸着程度の吸着エネルギーが得られ、TiO_2表面のO原子からCO_2分子への電荷移動が支配的であった。原子の選択ルールに従って、Ti原子の一部を電気陰性度のより小さなCaで置換することにより吸着エネルギーが予想通り増大した。また、分子分極による安定化を促進するには柔らかい原子を選べばよいが、現在までの計算では、分極項は相互作用エネルギーへの感度が弱いことを示唆するデータが出ている。
|