本研究では、超臨界水中での反応速度の記述を目的とし、A)超臨界水中でのセルロースモデル化合物の加水分解速度の評価およびB)in-situ紫外可視吸収スペクトル測定による溶質周囲の局所構造の解析を行なった。 A)超臨界水中でのセロビオースの加水分解 流通式装置を用い、反応温度250℃〜400℃、反応圧力25MPa〜40MPaにおいてセロビオースの加水分解実験を行った。加水分解速度は、いずれの反応温度においても反応圧力にともない増大した。亜臨界領域での反応速度の温度・圧力依存性は、Kirkwood式により良好に説明できた。本理論に基づけば、超臨界水中では水密度、誘電率が大幅に減少し、加水分解速度は特に低おい圧力下では大きく低下すると予想されたが、測定結果はより大きな値を示した。これはセロビオース周囲の局所誘電率がバルクに比べて高いことに起因していると考えると説明できる。 B)in-situ紫外可視吸収スペクトルによる局所構造の解析 In-situで紫外可視吸収スペクトル測定が可能な流通式装置を用い、まず常温・常圧において様々な溶媒中でキノリン分子のE2吸収帯の波長シフトを測定した。その結果、シクロヘキサンをはじめとする無極性溶媒中からDMSOやDMFといった極性溶媒中まで、測定結果は古典的なMcRaeの式により良好に相関することができた。しかし、水やアルコール等、水素結合性溶媒中では全く相関できなかった。これは、水素結合の形成の影響をMcRaeの式で記述できないことを示唆している。次に、同じ流通式装置を用い、測定温度25℃〜400℃、測定圧力25MPaの水中での測定を行なった。その結果をMcRaeの式を比較したところ、臨界点近傍以上ではMcRaeの式による記述が可能であることがわかった。これは、臨界点近傍以上で、キノリン分子と水分子間の水素結合が消失している可能性を示唆している。
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