超臨界領域での加水分解反応速度は、圧力により大きく変化する。そのため、反応速度の評価は超臨界反応プロセスの設計・解析において極めて重要である。本研究では、加水分解機構の解明、反応速度の圧力依存性、基質依存性(局所構造評価)の観点から、反応速度の理解と記述を行なうことを目的とする。昨年度は、反応場のinsitu分光法の開発を進めるとともに、臨界点近傍でのセロビオースの加水分解反応速度の評価を行ない、その古典的Kirkwood式による記述の可能性を検討した。その結果、臨界点近傍では分子周囲の水和構造の形成により、バルク物性を用いては説明できない可能性が示唆された。本年度は以下の2点について研究を行った。 1)昨年度開発した紫外・可視in situスペクトロスコピーを用いて、キノリンの吸収、発光、蛍光スペクトルの波長の圧力依存性を種々の溶媒中、また超臨界CO_2中で評価した。溶媒物性とスペクトルシフトとの関係について、Kamlet Taft理論による相関により、水和の寄与を評価した。水和構造の寄与は温度とともに低下し、臨界点近傍で急激に消失したが、水蒸気ライクの場においても若干の水和構造の形成が認められた。 2)セロビオースの加水分解反応速度を流通式装置により測定した。臨界点近傍での反応速度定数の圧力依存性を評価し、その結果をKirkwood式による誘電率依存性として記述した。バルク誘電率と局所誘電率がほぼ同じと仮定できる亜臨界領域において評価した反応速度を用いて推算された超臨界状態での反応速度は実測値よりも低い値を示した。この差異は局所水和構造の形成を示唆している。グロモスを用いたMDによっても、水和構造形成が示唆された。25MPaにおける反応速度は、異常に高い速度を示し、水和構造の形成だけでは説明できず、全く異なる反応機構の導入の必要性が示唆された。
|