ドコサヘキサエン酸(DHA)などの生理活性に富む高度不飽和脂肪酸及びそのエステル体の分離プロセスとして、これまで溶媒抽出法や膜分離法などが検討されてきた。これらの分離法は大量生産や濃厚系からの精製には適しているが、少量処理や希薄系からの精製には過剰投資となる。そこで本研究では、これらの生理活性物質を効率良く分離する高分子微粒子(MS)の創製を試みた。高度不飽和脂肪酸は分子内の二重結合とAg^+とがπ錯体を形成することが知られている。このため、MS表面にAg^+を吸着するために微粒子表面処理を行い、その後DHAがAg^+に吸着することで効率良く分離するプロセスを策定した。 モノマーとしてスチレンおよびエポキシ基を有するメタクリル酸グリシジル(GMA)を使用し、これらモノマーの仕込みモル比を変化させて実験を行った。分散相としてモノマーに重合開始剤を加えた溶液を、界面活性剤としてドデシル硫酸ナトリウムを溶解させたポリビニルアルコール水溶液を連続相として用いた。これら2液からO/Wエマルションを調製し、その後、懸濁重合法によりMSを調製した。高分子微粒子表面に出現したGMA中のエポキシ基をイミノ二酢酸で開裂させカルボキシル基を導入し銀イオンを固定化する場を構築した。 調製したMSの平均粒径は約70μmであった。MS表面に存在するエポキシ基をイミノ二酢酸ナトリウム(IDADS)で開環させてイオン交換基を導入した。イオン交換反応によりAg^+をMSに吸着させ、DHAが選択的に吸着できる足場を構築した。IDADSで表面処理を行ったMSはAg^+を吸着できたが、未処理のMSはAg^+を吸着しなかった。DHA吸着量は、Ag^+吸着量が100μmol/g-MS以下では、Ag^+吸着量が増加するに従い増加したが、Ag^+吸着量が100μmol/g-MS以上になるとDHA吸着量は飽和状態になることを明らかとした。
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