固体触媒表面において生起する光触媒化学反応は、光照射によって惹起される固体光触媒バルクおよび表面での電子励起と、それに引き続く不均一触媒化学反応により構成されている。前者は通常、周期境界条件を仮定する、いわゆるバンドモデルで説明され、一方それに引き続く後者の不均一触媒化学反応は、個々の反応分子と吸着サイトならびに反応活性サイトとの相互作用に強く依存する、すぐれて局所的な現象である。空間的には両極端を想定するこの両プロセスを包含した固体光触媒反応の統合的理解には、光による電子励起過程とその後の物理プロセスの原子レベルでの局所挙動に関する解明が必要不可欠である。 ここでは、空間分解能の非常に高い走査型トンネル顕微鏡(STM)に分光機能を付加した空間分解分光法により、不均一系固体光触媒の局所構造ならびにそこにおける電子状態を原子レベルで観察し、その光触媒活性を局所構造と局所電子状態から解明して、固体光触媒表面における光触媒化学反応を局所的に原子レベルで理解することを目的として研究を行ない、本年度は以下の結果を得た。 1.TiO_2(110)表面の清浄化手法として、UV光照射が有効であることを見出した。 2.UV光照射下によりTiO_2(110)表面には、STMで観察される光触媒表面形状が変化する領域のあることが見出された。この領域の大きさはナノメートルオーダーであり、島構造の狭隘部など特殊な表面構造の部分に局在した。この現象を励起電子または空孔が特殊な表面構造部分に蓄積した結果であると解釈した。
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