酵素は、穏和な条件下で触媒機能を発揮し、高い基質特異性および反応特異性を示す。そのため、酵素反応をファインケミカル製品等の合成プロセスに適用すると副生成物の生成がなく、しかも反応工程数の削減が可能となるので、溶媒やエネルギーの大幅な低減および原材料の高効率利用が達成でき、省資源・省エネルギーの次世代環境調和型合成プロセスの構築が可能になる。本研究では、自然界から探索した有機溶媒に安定な酵素の有機溶媒安定性の原因をタンパク質工学あるいは分子進化論的手法を用いて究明し、その研究成果をもとに、より一層高い有機溶媒耐性を有する酵素を開発するために必要な基礎的研究を行った。 本研究で検討した項目は以下の通りである。 1.有機溶媒耐性微生物Pseudomonas aeruginosa LST-03株の有機溶媒存在下での生育と有機溶媒に安定な酵素の生産 2.有機溶媒耐性LST-03リパーゼの精製と諸性質 3.LST-03リパーゼ遺伝子のクローニングとシーケンス 4.LST-03株のLST-03リパーゼ以外のリパーゼ遺伝子のクローニングとシーケンス 5.有機溶媒耐性PST-01プロテアーゼの精製と諸性質 6.PST-01プロテアーゼを用いたペプチド合成 7.有機溶媒存在下での酵素の立体構造変化の測定 8.PST-01プロテアーゼの遺伝子のクローニングとシーケンス 9.PST-01プロテアーゼの分子内に存在するジスルフィド結合の役割 10.分子進化工学的手法による酵素の有機溶媒耐性の原因解明 本研究では、非水系のバイオプロセスに必須となる有機溶媒耐性酵素をタンパク質工学的に作製するのに必要な基礎的研究を行った。本研究により得られた有機溶媒耐性酵素に関する知見は、将来、タンパク質工学的な有機溶媒耐性酵素の開発の基礎となるものである。
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