研究概要 |
1965年にWoodward-Hoffmann則が提唱されて以来,有機化学反応の立体経路が,相互作用する二つの分子のフロンティア軌道が有する位相の関係によって制御されるとする考えが有機化学,有機金属化学,触媒化学などのひろい分野で久しく受け入れられてきた。その中の一つに副次的軌道相互作用の理論があり,この理論を基盤にしてさらに多くの概念が提唱されている。一方,本研究で開発を続けてきた新フロンティア軌道理論をDiels-Alder付加環化反応に応用することにより,このような軌道相互作用が事実上存在しないものであることが示唆された。そこで,軌道相互作用理論の原点にさかのぼって検討した結果,最高被占軌道と最低空軌道間の相互作用に由来する副次的軌道相互作用が,フロンティア軌道以外の被占分子軌道および空分子軌道が相互作用に関与することによりほぼ相殺されることが明らかになった。新フロンティア軌道理論の展開によって旧来のフロンティア軌道理論に内包されるこの種の問題点が解決され,有機化学における基本的考えを30数年ぶりに改変するものとして学術雑誌に報告した。 種々の溶媒中でのα-ブロモカルボニル化合物のアルケンへの付加反応について非経験的分子軌道計算を行い,溶媒としての水の効果について実験結果を説明する結果を得た。また,ルテニウムおよび鉄の6配位ジヒドリド錯体における分子内転移反応について非経験的分子軌道計算を行い、これらの反応の遷移状態が三方両錐構造をとり,水素分子がアキシャル位を占めることを明らかにした。これらの結果については国内外他研究室との共同研究として発表した。
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