本研究では、炭素-水素、炭素-炭素、炭素-酸素結合など一般に不活性と言われている結合の切断を鍵とする触媒反応の開発を目的とした。以下のような反応を見いだすことができた。 われわれは、既にルテニウムを触媒とするイミダゾールの炭素-水素結合の直接カルボニル化(α位カルボニル化)を報告している。この反応が、イミダゾールだけではなく、チアゾール、オキサゾール、ピラゾールなど様々な5員環含窒素複素環にも適用できることを見いだした。さらに5員環含窒素複素環の共役酸のpKaの値が高いほど、すなわち窒素の配位力が強いほど反応性が高いことがわかった。また、反応性が低い基質の場合、一酸化炭素圧を低くすると反応が比較的速やかに進行することがわかった。これは、配位力の弱い基質の場合、一酸化炭素圧が高いと基質のルテニウムへの配位が妨げられるため反応が進行しなくなると考えられる。このことからも窒素原子のルテニウムへの配位が重要であることがわかる。 今まで見いだした炭素-水素結合の直接カルボニル化反応は、すべてsp^2の炭素-水素結合に限られていた。今回、分子内にピリジン環を有するアミンを基質に用いると窒素原子の隣ではあるがsp^3の炭素-水素結合でもカルボニル化が進行する例を見いだした。触媒は、ロジウムのみが活性を示し、さらにイソプロピルアルコールを溶媒に用いることが重要で、その他の溶媒ではほとんど反応が進行しない。イソプロピルアルコールの役割に関しては今のところ不明である。 予備的実験ではあるが、エステルとギ酸アンモニウムとの反応によりルテニウム触媒によるアルカンへの変換反応も見いだすことができた。この反応は、触媒反応としてはほとんど例のないアシル炭素-酸素結合の切断を経ている反応である。
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