ベンゼン環とアセチレンで構成された平面形パイ電子系分子については、極性溶媒にも可溶なトリエチレングリコール側鎖をもつジエチニルベンゼンマクロサイクル誘導体を合成し、極性溶媒としてメタノールおよびアセトニトリル中における自己会合挙動について検討した。その結果、極性溶媒中ではソルボフォービック相互作用により無極性溶媒であるクロロホルム中よりも著しく会合が促進されることがわかった。また、VPOを用いた分子量測定を行い会合体の構造について検討したところ、無極性溶媒中では主に二量体が形成されるのに対して、極性溶媒中ではより大きな会合体(平均6量体くらい)が形成されていることが明らかになった。さらに、ソルボフォービック相互作用により、極性溶媒中では環状構造をもたない鎖状のジエチニルベンゼン誘導体でも、環状化合物ほどではないものの会合体を形成することがわかった。 三次元構造を有するパイ電子系に関しては、C_<36>H_8前駆体の室温下の光照射により2分子のインダンが脱離したポリイン架橋パラシクロファンを単離するとともに、低温(77K)における液体マトリックス中での光照射により、すべてのインダンがはずれドデカヘイサイン架橋されたパラシクロファンの生成をスペクトル的に確認することに成功した。これは、純粋にポリイン鎖のみで架橋されたシクロファンを確認したはじめての例である。一方、C_<36>H_8前駆体の塩素置換体を合成し、そのレーザーデソープションマススペクトルを測定したところ、4分子のインダンが脱離してC_<36>Cl_8アニオンが生成するとともに、さらに塩素の脱離が起ってC_<36>アニオンも生成することがわかった。光電子スペクトル法を用いてこのイオン種の構造を明らかにするべく検討している。
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