本研究は、炭素同素体の物性と同等の性質をもつナノスケールの平面パイ電子系化合物を合成し、その物性を調べることにより未知の同素体の性質を検証することを第一の目的として行った。また、高反応性三次元共役ポリインの発生とその環化によりフラーレンを溶液中あるいは気相で合成すること、ならびに高次フラーレンおよびヘテロフラーレンの異性体選択的合成、遷移金属内包フラーレンの合成を行うことをもう一つの目的として研究を行った。 まず、ベンゼン環とアセチレンにより構成された拡張グラファイト構造の合成に関しては、周辺部分に相当する大環状分子を合成し溶液中での会合挙動について詳細な検討を行った。その結果、これらの環状分子が非極性溶媒中ではスタッキング相互作用により主に二量体に会合すること、一方、極性溶媒中ではナノチューブ状の大きな会合体を形成するという興味ある現象を見いだした。一方、核となるヘキサエチニルベンゼン誘導体の高効率合成に基づくグラフィンモチーフ分子の合成研究を行い、環化に適した種々の官能基を有する前駆体合成を行った。同時に、新規な三重結合形成法の開発や不安定中間体の生成と遷移金属錯体触媒を用いるベンゼン環構築法の開発等、新しい合成手法の開発に取り組んだ。 多環状ポリインからのフラーレン合成ついては、ポリイン前駆体のレーザーデソープションマススペクトルにおいてC60イオンを選択的に生成させることに成功した。この手法を用いてジアザフラーレンC58N2および低級フラーレンC36の生成にも成功した。しかし、熱分解あるいはオーブンレーザーを用いた分解反応を検討したが、マクロ量のC60を選択的に得るには至っていない。また、この手法による高級フラーレンの生成に関連して、ジアリールジエンインの熱反応による環化脱水素により、多環芳香族化合物が生成することを見いだした。
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