分子状窒素あるいはアンモニアを用いる複素環合成へと展開するために、窒素ガスから誘導できるニトリド錯体や、アンモニアガスをN1源として調製可能なクロラミンTを活用する含窒素複素環合成を検討した。 1.ニトリド錯体をN1ユニット源とする原子移動反応 マンガンニトリド錯体を窒素源とし、その活性化剤としてトシル無水物を用いるとアジリジンに、酸塩化物を用いるとオキサゾリンにそれぞれ一段階でアルケンから変換できることを明らかにした。さらに、光学活性なニトリド錯体を用いると、アジリジン、オキサゾリンともに高エナンチオ選択率で合成できた。本系は、これまでに類をみない環形成反応であり、窒素錯体から複素環を得る新しい方法論として、分子状窒素を用いる複素環合成の糸口を明らかにした。 2.クロラミンTをN1ユニット源とする原子移動反応 i)γ位にヨード基をもつオレフィンとクロラミンTをヨウ素触媒存在下、t-BuOH中で反応させたところ、ヨウ素官能基をもつアジリジンを合成することができた。また、本反応を触媒を用いずにアセトニトリル中で行うと、選択的にピロリジン誘導体が生成することを見出した。ii)クロラミンTの水への高い溶解性を活用し、水溶媒系でのヨウ素触媒によるスチレンのアジリジン化を行ったところ、相間移動触媒存在下、高効率的に反応が進行することが判った。iii)クロラミンTと銀塩を組合せることにより、官能基をもたないあるいは電子求引基をもつアルケンのアジリジン化に成功した。また、非共役ジエンとの反応では、連続的に環化反応が進行し、含窒素ビシクロ環を構築できた。
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