研究概要 |
アロステリズムは、生体内において分子惰報変換部位として重要な役割を担っている。アロステリズムを人工系でも再現し、分子情報変換システムを構築することは、分子テクノロジーの第1歩となると考え、分子設計の提案から研究を立ち上げた。本年度までにアロステリズムの概念を分子認識素子に組み込み、すでに世界初の水中におけるガン関連オリゴ糖鎖認識システムや、分子不斉記憶システムの構築に成功した。更に、ダブルデッカー型錯体が中心金属の種類,価数および紫外・可視光の照射によリポルフィリン間の距離および回転能の制御が可能であることに注目し、「他の金属の挿入」あるいは「光照射やredoxによる認識能のスイッチング」について引き続き検討し,分子機械としてのポテンシャルを探った。銀イオンをダブルデッカー型ポルフィリンに加えると、周辺置換基によらず、3当量の銀イオンが捕捉されることを明らかとした。さらには、銀イオンとの錯形成にともない上下のポルフィリン環の回転(振動)速度が加速されることを見いだした。認識情報が回転速度の加速、つまり力学応答として変換されたとも考えることができ、興味深い系である。さらに回転軸を金属イオンから、アセチレンなどの回転軸に展開した分子を合成し、フラーレンを協同的に認識することにも成功した。これは我々の提案したコンセプト「回転軸周りに論理的に認識部位を配置すること」がアロステリズム発現には重要であり、本コンセプトが一般性を持つことを改めて示すことができた。 ダブルデッカーポルフィリンの集積化(機能性材料化:さらなるアロステリーの発現)を目指しオリゴマー化あるいはポリマー化を検討した。手法としては、ポルフィリン2量体からのダブルデッカー化および重合可能な周辺置換基を持つトリプルデッカー型ポルフィリンの酸化重合を試みた。いずれの場合もオリゴマー、ポリマー成分が観測され、本手法がポルフィリン多量体の新規合成法になることが示された。環状オリゴマーは、多数の酸化還元電位を有することを利用して単一分子メモリとしての機能に関しても検討した。
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