研究概要 |
前年度までの研究で、高分子準濃厚溶液における揺らぎに関する我々の理論の正当性を実験的に検証し、動的光散乱法によって得られる自己相関関数g^<(2)>(t)から、拡散係数D,摩擦係数ζ、ゴム状平坦弾性率Lo,最長緩和時間Tmを決定できることを示した。本年度はその結果に基づき、まず,g^<(2)>(t)から,キュムラント法による解析とg^<(2)>(t)に関する離散的相関スペクトルの解析を組み合わせることによって,D,ζ,Lo, Tmを簡便に評価する方法を示した。つぎに,良溶媒とΘ溶媒を用いたポリメタクリル酸メチル(a-PMMA)溶液について,それの物理量を求め,それらの分子量,濃度,ならびに溶媒依存性を検討した。さらに,天然の両親媒性分子レシチンがシクロヘキサン中で形成する逆ミセル,合成界面活性剤分子C_<12>E_6が水溶液中で形成するミセルについて,拡散係数Dからミセルの形状,サイズ,および構造に関する検討を行った。得られた主な知見は以下のとおりである。 1)ζは高分子の種類,分子量,および溶媒系に依らずほぼ同一の指数則にしたがって濃度の増加と共に大きくなろことが判明した。この結果はDの濃度依存性の溶媒系による違いは拡散の駆動力すなわち浸透圧縮率の濃度変化が溶媒系によるためであることが分かった。 2)Loは高分子の分子量に依らず濃度の自乗に比例して増大し,力学測定からえられている準状態の文献値と滑らかにつながることが分かった。この結果,高分子鎖の絡み合い網目による高分子溶液の粘弾性に対するゴム弾性論の考え方が濃厚系から希薄な濃度領域まで成立することを示す。 3)レシチンはシクロヘキサン中では球状のミセルを形成するが,ミセル中の水含量の増加と共に円筒状の形態をとって長く成長していくことが分かった。この円筒状ミセルはかなり屈曲性をもっており、リシチン分子が一定の間隔で配置される構造をとるように形成されていくことが判明した。 4)C_<12>E_6は水溶液中で偏長楕円体状のミセルを形成し,サイズは温度上昇につれて大きくなるが,濃度が高い場合,ミセルが紐状となり網目構造を形成して粘弾性緩和現象を呈することを見出した。
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