研究概要 |
アブフナ科植物Brassica campestrisの自家不和合性は、1遺伝子座S複対立遺伝子系によって説明されている。柱頭側の認識物質としては、SRKが、その補助因子がSLGであることがわれわれの研究から明らかになっている。しかしながら、花粉側因子については、明らかになっていない。そこで、SLG9,SRK9を含む76kbの連続したゲノム断片上の12の遺伝子から、花粉特異的なものとして、2つの遺伝子(SAE1,AP11)を同定した。そこで、この2遺伝子と30のS遺伝子ホモ系統、遺伝子導入技術を組み合わせ、花粉側S遺伝子の単離を目標とした。 SP11に着目し、S52系統から類似のクローンを単離し、奈良先端大との共同研究から、S8,S12系統でも同様のcloneを単離できた。これらのクローンは、システインに富んだ新規のPCP(Pollen Coat Protein)をコードし、いずれもSLG, SRKに近接しており、S対立遺伝子間で高い多型性が見られた。さらに、この遺伝子は、葯のタペート細胞で発現しており、胞子体型の自家不和合性を説明することが可能な発現パターンであった。以上の状況証拠から、SP11が花粉側S因子として、最も期待できるものと判断し、遺伝子導入を行ったところ、SP11を導入した個体では、花粉のみの表現型に変化が見られたことから、このSP11が花粉がS遺伝子であることを証明できた。 さらに、RT-PCRとCHEFを組み合わせることによって、16の新規のSP11遺伝子を単離し、これらはいずれもS3遺伝子座上の60-104kbの範囲に存在していた。 単離できたSP11対立遺伝子から推測されるアミノ酸配列を並べたところ、8つの特徴的なシステイン残基のうち、6ヶ所すべての系統で保存されており、これらのシステイン残基は、SP11の高次構造を形成する上で重要であると考えられた。 雌しべ側の3遺伝子であるSLG, SRKとSP11ついて、分子系統樹を作製したところ、これら3者は共進化をしており、それによって、新しい対立遺伝子が生まれていることが推測された。 また、劣性のclass II SP11についても単離し、同様な結果を得た。
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