研究概要 |
トマトの花粉非崩壊型雄性不稔(T-4)は,晩秋に稔性が部分的に回復し自殖できることをこれまでに明らかにしてきた.この自殖種子を翌春に播種し,開花時に葯を取り出し人工授粉を行ったところ,着果率0%となり完全不稔となることを確認した. この稔性回復は日長には影響されないことから,一方の要因,つまり低温が強く関係しているのではないかと考え,グロースキャビネットの日長を12時間,昼温27℃とし,夜間の温度を8℃,16℃,24℃に設定し開花時に人工授粉を行ったところ,8℃で60%,16℃で20%,24℃では0%の着果率を示した. 低温が種子稔性回復に強く関係していることが明らかとなったので,8℃の低温遭遇時間と種子稔性回復の関係について調べたところ,夜間10時間かけて漸次温度を下降させ最後の2時間を8℃としても,種子稔性の回復がみられた.この場合,育苗期に長く低温に遭遇した株は開花時からの低温遭遇時間が2時間と短くても着果率が高まった.しかし,種子数は正常育苗株の1/3(10前後)と少なかった.このことから,栄養生長期の低温も種子稔性回復に関係することが示唆され,低温遭遇量の多い株では単為結果しやすくなるものと考えられた. なお,夜温を24℃とした場合でも着果する個体があり,高い試験区では15%にもなった.また,着果率や果実当たりの種子数においても株間のバラツキは大きく,雄性不稔発現とその回復に関わる遺伝的制御は未だそれほど均質にはなっていないものと推察された.従って,人工交配が行われる晩春〜初夏かけて株の完全雄性不稔性を確認しつつ,数世代selfを繰り返し遺伝的発現の固定化を図る必要があるものと考えられた.
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