トマトとバナナを用いて、果実の成熟に伴うエチレンの生合成および信号伝達に関わる遺伝子のクローニングと発現解析を行い、以下のような新たな知見を得た。 1.両果実からエチレンの信号伝達に関わるEIN3遺伝子(EIL)を複数種類クローニングすることができた。発現解析の結果、バナナではEIL2とEIL4が成熟に関与しており、しかも果皮と果肉で発現様相が異なっていた。トマトでは、EIL1とEIL4が成熟に関与しており、なかでもEIL1は成熟初期に一時的に高まる発現特性を示し、興味ある結果が得られた。 2.そこで、EIL1遺伝子のより詳細な役割を知るために、この遺伝子をセンス方向でトマト植物体に形質転換したところ、幼植物体が上偏生長を示し、その過剰発現個体の育成にまで成功した。今後、この個体を育成することで、エチレン信号伝達系の解明が進むものと期待している。 3.未熟バナナをプロピレンで成熟誘導し、その後MCP処理を行ったところ、エチレン生成がより促進されるという極めて興味ある現象がみられた。その原因をエチレン生合成関連遺伝子の発現特性から詳細に調べたところ、果皮と果肉ではエチレン生合成のフィードバック調節機構が全く正反対であることが明らかとなった。果皮では、多くのクライマクテリック果実と同様に、成熟エチレンの主要遺伝子であるMA-ACS1はポジティブ制御を受けていたが、果肉では逆にネガティブ制御を受けていた。このことは、従来からバナナは典型的なエチレン依存型果実とされていた概念を根本的に覆すものであり、極めて興味深い結果であった。
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