研究概要 |
本研究では、エチレン非感受性の花であるグラジオラスおよびチューリップの花を用い、数種の少糖類および阻害剤のうち、トレハロースが花弁の老化抑制に最も効果的であることを明らかにした。開花直後から萎凋期までの花弁について、^1H-NMR縦緩和時間(T1)を反転回復法により求め、成分分割を行い自由水成分を求めた。また-40℃で横緩和時間(T2)をソリッドエコー法で求め、結合水成分を求めた。さらに、TNBT法により花弁組織の代謝活性の程度を観察した。老化が進行するにつれて、含水量や自由水量の減少、膨圧の低下、結合水の減少、活性染色の低下を伴い、トレハロースはこれらの現象をすべて抑制することを明らかにした(Iwaya-Inoue et al.1999;Otsubo and Iwaya-Inoue 2000,Iwaya-Inoue and Takata 2001)。本研究では、トレハロースによる花弁の老化抑制過程を^1H-NMR観測による自由水成分および結合水成分の維持という視点からも捉えることができた。これらの結果については、園芸学会、植物学会、低温生物工学会およびトレハロースシンポジウムで発表し、植物生理学会(2001年)でも発表予定である。 一方、トレハロースは細胞伸長には寄与しないこと(Ikeda et al.2000;Iwaya-Inoue and Takata 2001)や、花弁細胞内に取り込まれた糖が微量なこと(Iwaya-Inoue et al.2000)から、切り花への糖の役割として考えられてきたエネルギー源や浸透圧調節剤として働くのではなく、スクロースなどとは異った機能により組織の生理活性を維持していることが示唆された。さらに、イオン漏出の抑制、タンパク質量や組織の代謝活性の維持が認められたことから、切り花花弁におけるトレハロースによる膜系や生体高分子に対する保護機構があることが示された。
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