研究概要 |
次の器官でNAT及びインドールアミン代謝系が次の様な生理機能に関わっていることが明らかになった。 1)ゴキブリ脳においてはNAT活性が周期的に変化したが、昼と夜に2つの活性ピークを示し、このリズムは自由継続した。従って、生物時計の制御機構に関わっている可能性が強い。サクサンではメラトニンが夜間に高い一山のピークを示した。NATの活性も長日による休眠覚醒と低温処理に対応して増加した。この時機に、脳内のセロトニンと血中エクダイソンの上昇が見られた。したがって、時計-NAT-セロトニン/メラトニン-PTTHという光周性の枢軸にこの代謝系が深く関わっている可能性が示唆された。サクサンNATをクローニングした。リアルタイムPCRでNATの転写活性に夜にピークを持つ活性の変動を確認した。イエコオロギにメラトニンを飲水に入れて飲ませると明期の活動の減少と自由継続リズムが顕著に同期化した。 2)中腸で飢餓と摂食でセロトニンがそれぞれ減少、増加し、NAT活性と平行にN-アセチルセロトニンが増加、減少する。飢餓に晒したコキブリを再摂食させるとセロトニンがスパイク的に増加する。飢餓に晒したゴキブリに摂食したゴキブリの体液を注射すると中腸細胞にプロモデオキシウリヂンの取り込みが促進され、同じ結果がセロトニンを注射したときにも見られる。従ってセロトニンは細胞増殖を引き起こす系の少なくとも上流に関わっており、この調節を制御するのがNATと考えられる。鱗翅目幼虫の中腸幹細胞の初代培養件でセロトニンが細胞増殖活性を示した。したがって、セロトニンが細胞増殖因子そのものである可能性もある。同じ系でN-アセチルセロトニンは細胞増殖を抑制した。 3)ワモンゴキブリ雌生殖腺付属腺のNAT活性を羽化後に追跡した。トリプタミンとセロトニンにたいしてNAT活性の変化は異なり、トリプタミンの存在が示唆され、これが確認された。トリプタミン及びN-アセチルトリプタミンの注射は卵細胞に卵黄蛋白質の取り込みを促進した。従って、インドールアミン代謝系は生殖調節にも関与することが明らになった。クサギカメムシの幼虫発育と生殖制御に関して、NAT活性が環境条件に対応して動くこと、幼虫発育と脂質の蓄積についてメラトニンが雄の光周性に関わる可能性が示された。 4)ゴキブリ中腸と雄雌の生殖腺からNATを完全精製した。等電点を異にする2つのタイプの酵素が精製されたが、両者ともMr=28kDaであった。それぞれの器官は両方のタイプを含み器官ごとに最適pHと活性レベルの特異性を示した。また精製された2つのタイプの基質親和性を比較すると両者はかなり異った。それぞれの器官に由来する酵素について基質結合様式や基質親和性、金属イオンの活性に及ぼす効果、高温における安定性,クロマトグラフィにおける挙動などからも3つ以上の酵素が示唆された。酸性で強い活性を示すNATの一部アミノ酸配列を決めた。中腸からアルカリ側に強い活性を持つアイソフォームの精製を行い同じサイズの精製バンドを得た。前者は発表されたショウジョウバエNATの配列と相同のフラグメントを1つ持っていた。2つのペプチドフラグメントをクローニングしたNAT遺伝子から推察されたアミノ酸配列に一致した。ノーザン分析でも蛋白質として精製されたものに対応するサイズのバンドが得られた。中腸、雌生殖腺で昼と夜でmRNAの変動が示された。
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