研究概要 |
微胞子虫胞子は強固な細胞壁を有する事が知られており,一般に発芽誘導化学物質を用い発芽処理を行った後にゲノムDNAを抽出する。化学物質に対する各種胞子の発芽率は微胞子虫の属,種間で大きく異なるために,属,種の異なる微胞子虫からゲノムDNAを抽出する際には広範囲の微胞子虫に発芽を誘導する過酸化水素水がこれまで主として用いられてきた。しかしブラジルの病蚕から分離された微胞子虫分離株は過酸化水素水を含む既知の発芽誘導化学物質で前処理をしてもDNAの抽出は認められなかった。そこで種々の物質を検討したところ,pH12.0に調整したアルカリEDTA溶液による前処理は用いたすべての微胞子虫胞子からのゲノムDNA抽出に有効であった。これは微胞子虫の発芽生理,発芽効率及び胞子外に抽出されたDNAの安定性が関与していると推察された。 パルスフィールド電気泳動において分子量とシグナル強度との関連性について検討した。Saccharomyces cerevisiaeの場合は分子量,シグナル強度の間に高い相関が認められる。一方,微胞子虫の場合は一部を除きその関連性は極めて低いものであった。これは同一サイズの染色体が複数存在する,または同一の染色体が複数存在する可能性,もしくは抽出過程において物理化学的あるいは生物学的(アポトーシス等)に特異的な切断が起き,人工産物としてバンドの多様性が生じた可能性,多重感染により複数の微胞子虫由来のゲノムDNAの混在などが考えられた。これまで微胞子虫の総ゲノムサイズの報告があるが以上の問題点については指摘されていない。 以上の事より微胞子虫ゲノムDNAのパルスフィールド電気泳動による比較はクローン化した微胞子虫を用いゲノムの数,サイズではなく,同一条件下で抽出,泳動した場合のシグナル強度を考慮に入れたバンドパターンの比較により議論すべきであると考えられた。
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