今年度は、個葉光合成の生化学を中心に研究を行なった。具体的には、イネよりもコムギの方が窒素含量あたりの光合成能力が高いことに着眼して、比較考察することによってその要因を探った。Rubiscoの酵素学的性能はコムギの方が高い。そのRubiscoの差が窒素含量あたりの通常CO_2分圧下(36Pa)で測定される光合成速度の差を決定している。そこで、まずRubiscoが光合成の律速要因にならない高CO_2条件下(100Pa)の光合成速度もコムギの方が高いことを明らかにした。このことは、Rubiscoのみならず、もう一つの光合成の律速要因であるRuBP再生産系もコムギの方が優れていることを意味する。その因子を、光化学系電子伝達の鍵コンポーネントである(ATP合成酵素)CF1とCyff、ショ糖合成系の鍵酵素シュクロースリン酸合成酵素(SPS)、および、いくつかのカルビン回路酵素に求め(図参照)、それぞれのポテンシャルとしての量や活性を測定して、どの因子によってイネとコムギの高CO_2条件下の光合成速度の差を定量的に説明ができるかを調べた。その結果、それはCytf量であることがわかった。すなわち、RuBP再生産系は光化学系電子伝達のコンポーネントの一つであるCytf量によって決定されているのである。この結果によって、イネのRuBP再生産系の能力を向上させるためには葉身窒素含量あたりのCytf量の増強がポイントとなること明らかになった。
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