本研究課題は、イネを材料に個葉レベルのポテンシャルとしての光合成能力がどのように個体成長に反映されるのかを調べたものである。植物のバイオマスのほとんどが葉における光合成産物であるにもかかわらず、多くの研究は、個葉の光合成能力は必ずしも個体の成長や乾物生産に反映されないことを指摘してきた。それゆえ、私は、葉の光合成のみならず形態的な応答を含め個体レベルでのバイオマスや窒素分配が重要であると考えた。RbcSアンチセンス遺伝子を導入し、光合成の炭酸固定酵素であるRubisco量を減少させた形質転換体イネした。そのイネでは、個葉の光合成速度は低下し、個体の成長や乾物生産の低下が認められた。このように個葉光合成と乾物生産には明かに正の相関があった。しかしながら、個葉の光合成能力もまた個体レベルでの成長によって制御されているものであった。たとえば、高CO_2環境では葉の窒素含量の低下や葉面積の縮小が見出された。この現象は、高CO_2環境下での植物の成長にきわめて重要な意味を持っていた。葉の窒素含量の低下は葉面積や個体バイオマス増加による窒素の希釈ではなく、個体レベルにおける窒素の器官分配の変化ゆえの結果であった。高CO_2環境下で長期間生育したイネの場合、明確に窒素を葉身から、葉鞘、茎、および根へと再分配しているのである。対照的にrbcSアンチセンスイネでは、葉身への優先的の窒素投資や葉面積の拡大が見られるのであった。このように、植物は個体レベルで窒素の分配をコントロールし、葉の光合成能力を制御している姿が認められた。
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