レプトマイシンB(LMB)は、放線菌代謝産物から抗真菌抗生物質として申請者らの研究室で発見された細胞周期阻害物質であり、申請者らによる作用機構の解明からこれまで未同定であったロイシンリッチNESの受容体CRM1が同定されるという生物学における重要な発見につながった特色ある化合物である。本研究では、このようなオリジナルな発見を発展させ、まず、LMBとCRM1の分子間相互作用と機能阻害機構の分子レベルでの解明と新たな輸送基質蛋白質の同定を目指した研究を行った。その結果、LMBに対して高度に耐性化した分裂酵母の取得と遺伝解析からその耐性遺伝子がCRM1自身であり、中央領域のシステイン残基がセリンに置換されたためLMBとの結合を失うことを突き止めた。さらにLMBとCRM1の結合をマススペクトルやNMRで解析し、LMBがCRM1上の特定のシステイン残基と共有結合することを明らかにした。この結合はきわめて特異的であり、生理的条件下ではCRM1以外に結合するものは認められなかった。また、新たな輸送基質の同定を試み、分裂酵母の転写因子Pap1と動物細胞の転写因子Bach2がCRM1依存的に核外輸送されることを明らかにした。これらの転写因子は、通常は核-細胞質間をシャトルし、酸化ストレスに応答して核移行するが、そのメカニズムは、酸化ストレス存在下で特異的にNESの機能が失われ、核外輸送できないために核移行することが判明した。これらの蛋白質のNESは一般的なNESとは異なり、機能に必須のシステイン残基を持ち、これが酸化ストレスを感知するセンサーであると推定される。
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