研究概要 |
土壌分離細菌Sphingomonas sp.A1(A1株)は、3種類のアルギン酸低分子化酵素(アルギン酸リアーゼ:A1-I,A1-II,A1-III)を菌体内に生産する。これら3種類の酵素は1個の遺伝子にコードされており、共通の前駆体Poから逐次翻訳後修飾によって生成する:P0→A1-I,A1-I→A1-II+A1-III。後者の反応は、A1-I自身が有するタンパク質分解酵素活性に依存している。つまり、A1-I酵素はその分子内に2種類のアルギン酸リアーゼ(A1-II,A1-III)とプロテアーゼを有する多触媒中心酵素である。しかも、この3種類の酵素は一つの塩基配列にコードされているため、1個の遺伝子が3個の酵素タンパク質をコードしたことになり、従来の1遺伝子:1タンパク質の概念を充たさない。この原因を明らかにするためには、A1-I酵素分子の高次構造の理解が必要である。そこで、A1-IとA1-IIの予備的X線結晶構造解析を行い、A1-IIIに関しては高分解能での結晶構造を決定した。結晶は蒸気拡散法で調製した。A1-Iの結晶は単斜晶で、P2_1の空間群に属し、非対称単位中に16分子の酵素を含んでいた。A1-IIの結晶は正方晶で、P4_32_12(P4_12_12)の空間群に属し、非対称単位中に16分子の酵素を含んでいた。一方、A1-IIIの結晶は単斜晶のC_2の空間群に属し、非対称単位中に1分子の酵素を含んでいた。また、分子置換法により、A1-I分子がA1-II分子とA1-III分子から構成されていることを示した。A1-IIIの結晶については、1.78オングストローム分解能で結晶構造を解析し、本酵素が新規の超二次構造であるα_6/α_5バレル構造を有し、そのC末端側にトンネル様の活性部位クレフトが配置されていることを見出した。基質結合部位の構造も詳細に解析し、His192が触媒残基礎であることを示した。現在、A1-IIIの結晶構造に基づいて、本分子上に存在する3種類の酵素の存在状態に関する構造的情報の収集を進めている。
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