研究概要 |
スフィンゴモナス属細菌A1株は、細胞質に3種類のアルギン酸リアーゼI, II, IIIを有する。これら3種類のリアーゼは、唯一の遺伝子にコードされており、先ず前駆体Po(71kDa)として合成された後、そのN末端ペプチド5kDaが切除され、Iが生じる。Iは、自己プロセッシングによって分子量と気質特異性をことにするIIとIIIに分断される。この分断は、EDTAやO-フェナンスロリンによって完全に阻害されることを明らかにし、この分断がIのプロテアーゼ様活性によることを示した。これにより、Iは、II, III及びプロテアーゼの3種類の酵素を搭載した多触媒中心酵素であることを確定した。Iのプロテアーゼ活性は、PoからN末端が除去されることによってIに賦与されることを示した。しかし、プロテアーゼ触媒部位がIの何処に、どのような情報として記述されているかが問題になる。つまり、アルギン酸リアーゼの合成系は、従来の定説である1遺伝子-1たんぱく質(酵素)の概念とは異なり、1遺伝子-3たんぱく質(酵素)の検証を可能にする実験系を提供し、1遺伝子の中に潜在する遺伝情報量の見直しを提起した。この問題点を明らかにするためには、I, II, IIIの構造機能相関解析が不可欠である。そこで、I, II, IIIのX線結晶構造の決定を進めた。Iは、結晶作製中に自己プロセシングによってIIとIIIに分断するため、構造決定までには至らなかった。IIの結晶は簡単に得られるが、1対象単位に多数の酵素分子が含まれているため、結晶構造解析には適さなかった。そこで、N末端を削除した変異酵素で結晶を調製した。IIIに関しては、詳細な触媒中心の構造と触媒機構を解析し、従来のヒスチジン関与の触媒機構を否定し、正確なチロシン関与の正確なβ-脱離反応機構を確立した。
|