ジャガイモ夏疫病菌のゲノムライブラリーを用いたソラナピロン生合成遺伝子クラスターの探索において一つの還元型ポリケタイド合成酵素(PKS)遺伝子が見出された。今回このPKS遺伝子を発現ベクターpTAexに組み込みAsperguillus oryzaeに形質転換導入した。得られた形質転換体をデンプンを含む誘導培地で培養したところ、新たな化合物の生産が認められた。この化合物を単離、構造決定しアルタナピロンと命名した。その構造はソラナピロンと酷似していたが、側鎖の鎖長、C-メチル基の数および二重結合の位置が異なっていた。糸状菌の還元型PKSは放線菌のそれと異なり、同じ触媒部位を何度も使い回すことが知られる。そのため本来ソラナピロンを生産する酵素が調節機能が不十分なため、アルタナピロンが生成したことも否定できず、今後本酵素の詳細な触媒機能の解明が待たれる。アルタナピロンの生合成単位を確認するため、13C-標識酢酸およびメチオニンの取り込み実験を行った。その結果アルタナピロンの炭素鎖は酢酸由来であり、側鎖はメチオニン由来であることがわかった。 アルタナピロンの近傍にFAD結合部位のモチーフを持つオキシダーゼ(アルコール脱水素酵素とは異なる)と予想される酵素をコードする遺伝子も同時に見出された。先のPKSと同様A. oryzaeを用いた形質転換系を用いて発現させたが、残念ながらソラナピロン合成酵素活性は検出されなかった。 以上植物病原菌の代謝する植物毒素のうち多くを占める還元型ポリケタイド合成酵素遺伝子の一般的な取得法が確立することができた。今後別のA. solani株が生産するアルタナル酸などの還元型ポリケタイド化合物の遺伝子の同定、発現確認などを通して、病原菌と作物間の感染過程で起こる様々な攻防が分子レベルで明らかになることを期待する。
|