研究概要 |
甲殻類のX器官/サイナス腺から合成分泌される神経ペプチドホルモンのうち,血糖上昇ホルモンと脱皮抑制ホルモンは配列に相同性が認められるにもかかわらず,作用が異なる。われわれはクルマエビを材料にして両ホルモンの構造を決定し,cDNAをクローニングし,それを用いて組換え体脱皮抑制ホルモンを合成した。この組換え体はリホールディング反応の後はじめて天然物と同等の活性を示した。この組換え体と天然ホルモンに含まれる3対のジスルフィド架橋様式が同じであることを確かめるために,まず天然のホルモンを1300尾のクルマエビのサイナス腺から精製した。これまで,血糖上昇ホルモンのジスルフィド架橋様式は決定された例があったが,脱皮抑制ホルモンのジスルフィド架橋様式は決定されていなかったので,これを決定した。すなわち,サーモリシン,トリプシンおよびエンドプロテイナーゼAsp-Nで順次消化し,最終的に1対のジスルフィド結合を有する断片を3つ得た。配列解析の結果から,7位と44位,24位と40位,27位と53位の間でジスルフィド結合が架かっていることが明らかとなった。そこで,組換え体についても同様の手法で解析した結果,天然体とまったく同じ架橋様式を有することがわかった。次に,CDスペクトルによって二次構造を予測した。天然体,組換え体についてCDスペクトルを測定したところ,両者はともに208nmと222nmに極小値を有する典型的なαヘリックスに富むスペクトルを示した。現在,^<13>Cおよび^<15>Nの二重標識組換え体を調製し,NMRを用いた立体構造解析を試みているところである。
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