甲殻類の眼柄内に存在するX器官/サイナス腺系で合成、分泌される神経ペプチドは様々な生理過程に関与しており、特に血糖上昇ホルモン(CHH)族ペプチドと呼ばれる一群のペプチドは脱皮や血糖を調節している。本年度は脱皮抑制ホルモンを大腸菌の発現系を用いて大量に発現し、天然のホルモンと同等の活性を有するペプチドを得ることに成功した。このペプチドの3対のジスルフィド結合の結合様式を調べたところ、天然物とまったく同じであり、円二色性スペクトルもよい一致を示した。また、このスペクトルからα-ヘリックスに富むことがわかった。核磁気共鳴スペクトルを利用してこの脱皮抑制ホルモンの立体構造を解析するために、^<13>Cと^<15>Nで二重標識したペプチドを調製した。これまでに、各種モードでスペクトルを測定し、全体の約90%のプロトンの帰属を終え、二面角情報と一部のNOE情報を総合しておおよその立体構造を出すところまで来ている。さらに、精密な構造を出すまでにはしばらく時間を要する。脱皮抑制ホルモンと類似の構造をもつが活性の異なる血糖上昇ホルモンについても現在同様の方法でペプチドを調製しており、二重標識ホルモンを調製する段階まで来ている。将来は、2つの分子を立体構造レベルで比較し、活性との関係を明らかにできればと考えている。これらのホルモンはもともと同一起源のペプチドから進化してきたと考えられるので、その分子進化の過程も推測できるかも知れない。そのような研究材料としても適していると考えられる。
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