研究概要 |
海洋天然物の中には、食品(いわゆるシーフード)として人の健康に影響を与えるものが少なくなく、食品衛生学的にも分子科学的にも研究を深めなければならないものが多い。本研究では、いまだに達成されていない光学活性な(-)-テトロドトキシン(TTX)とシガテラ毒の本体であるシガトキシン(CTX)などの多酸素化合物の化学合成を目的としたものである。 まず、前者については水酸基が少ない類縁体2種類の合成を完成させた。フグの肝臓から取り出したテトロドトキシンの結晶化精製母液について、イオン交換カラムによるLC-MSを軽水・重水中で測定し、交換プロトン数の差から、類縁体の欠損酸素原子の結合位置が炭素原子か窒素原子かを特定する新しい手法を確立した。ここで化学合成した5,11デオキシTTXなどは天然には見つかっていない。 一方、CTXの化学合成は多くの研究者が試みているものの手法として独創的な研究グループはわずかである。本研究では糖質アセチレンを増炭反応やビスコバルトカルボニル錯体としてエーテル環形成反応に活用する手法、さらにこの閉環エンド錯体をビニルシランに変換して官能基変換する手法、これを繰り返して梯子状の分子を構築するという方針で臨んだ。すでに、各部分部分の合成を終了して80%の合成を終えた。最終年度では、これらを実際に全合成するために、左右2分割した分子を中央でカップリングする方針でモデル実験に成功し、ほぼ当初の予定を達成することができた。 これらの活性物質合成が完成したら、これとは別に進めているタンパク質の部位特異的修飾法とそのピコ〜フェムトモルにおける超微量解析法をあわせて、研究の大きな段階を越えることができた。
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