研究概要 |
モウソウタマコバチAiolomorphus rhopaloides(以降タマコバチという)はモウソウチクPhyllostachys pubescensの小枝にモウソウチクエダフクレフシという細長いゴールを作るゴール形成者(Gall maker)である。1997年から2000年の早春に名古屋市天白区にある3ヶ所のモウソウチク林でこのゴールを採集し、そこから脱出したタマコバチ成虫と寄居者(Inquiline)であるモウソウタマオナガコバチDiomorus aiolomorphi(以降オナガコバチという)成虫を2,3日おきに数えた。また、4月はじめから6月下旬まで1週間ごとにタケの芽の伸長を測定した。その結果、次のことが明らかになった。 (1)タマコバチは4月中旬から5月上旬にかけてゴールが脱出した。オナガコバチはタマコバチよりも遅く、4月下旬から6月上旬にかけて脱出した。 (2)タマコバチの脱出時期とタケのフェノロジー(芽の伸長時期)は一致していた。このような脱出傾向を産卵場所である新梢の栄養条件から検討したところ、この時期の新梢は栄養分が高いことが明らかになった。 (3)森林総研関西支所でのモウソウチクとマダケでのゴール数の違いは、産卵場所であるマダケの新梢の展開が遅いという寄主のフェノロジーの違いから説明することができた。 コナラ,コナラにゴールを形成するタマバチ類,およびタマバチを利用する寄生蜂複合体を対象に,三栄養段階にわたる相互作用系の存在様式およびその特性を明らかにすることを目的として調査した。その結果、次のことが明らかになった。 (1)タマバチがゴール形成性を獲得した適応的意義を,過去に提唱された仮説もとづいて検討したところ,ゴール形成は,植物組織の栄養面の改良という点において,適応的な意義があるものと考えられた。 (2)タマバチの植物資源利用における可塑性は,寄主植物であるコナラの可塑的な特性に対応するために獲得した形質ではないかと考えられた。また,タマバチ群集は,寄生蜂にとって時間的かつ空間的な予測性の低い資源であると考えられた。この予測性の低さに対して,寄生蜂複合体の各構成種は,それぞれの寄主資源利用様式に可塑性を持って対応している可能性が示唆された。これらのことから,コナラ,タマバチ群集,寄生蜂複合体の三栄養段階間の相互作用系は,固定的な相互作用系ではなく,寄主植物の特性の時間的,空間的な変異によってもたらされるそれぞれの資源の変動に対応可能な,動的な相互作用系であると予想された。
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