研究概要 |
木本植物葉の最大光合成速度は草本植物の1/2以下であり、著しく低い値が得られる。この研究では、葉の電子伝達反応の非破壊測定、すなわちチラコイド膜を流れる電子の数を葉緑体を単離することなしに生きている葉を用いて定量的に測定する手法を開発し、葉の電子伝達速度や光呼吸活性、RubisCO活性(RuBPカルボキシラーゼ活性オキシゲナーゼ活性)などの測定を行った。また、この測定法を応用して、遺伝子組み替えによる形質転換植物の機能解析を行った。 このような測定により、空気中(21%O_2,350ppmCO_2)、飽和光照射下(1000μmolm^<-2>s^<-1>)での葉緑体内のCO_2濃度は草本葉において160〜240(μmol mol^<-1>)であったのに対し、樹木葉では100〜170(μmol mol^<-1>)と低く、樹木細胞はCO_2不足の状態にあることがわかった。これは、樹木細胞のCO_2透過性が草本の1/3〜1/8と極端に低いことが原因であった。この原因を明らかにするため、葉の葉肉細胞のCO_2透過性と生体膜を構成している資質の脂肪酸不飽和度との関係をいろいろな植物で測定し、次の結果を得た。 (1)葉肉細胞における不飽和脂肪酸含量と葉の高温ストレス耐性との間に相関関係があることを見出した。 (2)不飽和脂肪酸のうち、トリエン脂肪酸(18:3)量と葉肉細胞のCO_2透過性(コンダクタンス)との間には正の相関が見られ、トリエン脂肪酸の増加とともにコンダクタンスが増加し、光合成活性が増加することが明らかになった。 (3)光呼吸活性/光合成活性の比は、トリエン脂肪酸含量が低いほど大きくなった。すなわち、光呼吸は葉のCO_2膜透過性によって制御できることが示唆された。 以上の結果より、樹木葉はCO_2の膜透過性が低く、葉緑体内でCO_2が不足するために光呼吸活性が高くなり、その結果として光合成が抑制されることが明らかになった。このことは、生体膜を構成している脂肪酸の不飽和度を人為的に変えることによって、光呼吸活性と高温ストレス耐性能力が変化するととを示している。
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