本年度は、葉緑体DNA上にコードされている4遺伝子(rbcL、atpA、petA、rps3)の塩基配列情報を基に、ヒノキ科ヒノキ属(一部イトスギ属を含む)を中心として以下の2点を明らかにした。 1.ヒノキ属(Chamaecyparis)の系統進化:ヒノキ属全6種(1変種を含む)を対象として葉緑体DNA塩基配列情報を用いて、系統解明を行った。petA遺伝子でのみ塩基置換が認められたヒノキとその変種であるタイワンヒノキは、北米産のローソンヒノキと近縁であった。また、本邦産のサワラと台湾産のべニヒが近縁となった。アラスカヒノキは系統的に大きく異なっていた。この結果、ヒノキ属は、(1)ヒノキ・タイワンヒノキ・ローソンヒノキ、(2)サワラ・べニヒ、(3)ヌマヒノキ、(4)アラスカヒノキの4系統から成り、まずアラスカヒノキが分化し、残りの3系統は比較的短期間に分化したことが判明した。 2.アラスカヒノキ(Chamaecyparis nootkatensis)の分類学的位置づけ:アラスカヒノキはイトスギ属の数種と属間雑種を形成する珍しい種である。これまでの形態や化学成分等の研究からイトスギ属(Cupressus)に近いという意見もあった。そこで、葉緑体DNA塩基配列情報を比較したところ、ヒノキ属の他種よりも多くの塩基置換が観察された。一方、イトスギ属3種との間に認められた塩基置換は少なかった。つまり、アラスカヒノキと他のヒノキ属との変異は属間に見られる変異であり、イトスギ属との変異は属内の変異であると考えられた。アラスカヒノキはモントレーヒノキやアリゾナイトスギと姉妹群を形成し、今回の分子データによって、アラスカヒノキはヒノキ属ではなく、イトスギ属の1種として分類すべきであることが示された。
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