セルロースの熱分解・炭化挙動を詳細に検討し、結晶崩壊が320℃を境に起こること、それに続いて狭い温度範囲で多量の炭素化合物の揮散が起こり、炭化収率は理論値の1/3〜1/4と低くなることが分かった。そこで脱水を促進する無機化合物として硫酸を添加したところ、分解温度が200℃付近まで下がり、同時に炭化収率が大幅に向上し理論値の80%程度になった。セルロースを誘導体化しても類似の効果があることを過ヨウ素酸酸化セルロース(ジアルデヒドセルロース)で確認した。ジアルデヒドセルロースを窒素化合物と反応させたオキシム、ヒドラゾンは低置換度の場合は普通のセルロース誘導体と同様の熱分解をするが、置換度が高くなると特異な爆発的分解を起こした。 バクテリア、ホヤ、海藻等の高結晶性セルロースを1600℃以上で処理して得られる黒鉛の結晶性は元のセルロースの結晶性と相関があり、またセルロース微結晶に相当するフィブリル状の黒鉛結晶=カーボンナノロッドを含むことを見出した。これは現在まで知られていない形態の炭素であり、新しい機能性材料を与える可能性がある。そこでこの物質を多量に生成する条件を探索して、セルロース微結晶の凍結乾燥処理、板状基盤への乾燥固定、他物質への包埋等を行なって炭化を試みた。そのうちコロイド状銀粒子での被覆が一定の効果があることが分かったが、微結晶炭素を多量に調製する条件は未だ確立していない。セルロース類似の物質としてポリビニルアルコールの熱分解を調べたところ、これも硫酸添加によって熱分解挙動が大きく変化し、250℃付近で理論脱水量に一致する重量減少を示した。化学構造から考えるとこの残渣はポリアセチレン類似の構造を持つと考えられ、新しい導電性高分子を与える可能性がある。
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