研究概要 |
サケ科スチールヘッドマス(Oncorhynchus mykiss)の未受精卵から単離し,構造を解析した新規動物レクチンファミリーに属する3種類のラムノース結合特異的レクチン(STL1,STL2,STL3)の生物学的機能性を検討した。STLの局在を酵素免疫測定法(ELISA)で調べ,STL1が雌の卵巣と雌雄の脾臓に多く存在し,他に心臓,肝臓,血液などに存在すること,一方,STL2とSTL3は卵巣にのみ存在することを明らかにした。さらに雌雄2才魚の各組織におけるSTLの局在を,抗STL抗体と共焦点レーザー顕微鏡を用いた間接免疫蛍光法を用いて詳細に調べた。ELISA法でSTL1が検出された肝臓や脾臓においては,それら器官の血管内の白血球のみが染色された。これによってSTL1が白血球で産生されることが明らかになった。卵巣におけるSTLの局在を免疫染色で調べた結果,いずれのSTLもPAS染色陽性の卵黄胞の局在と一致し,それらの出現は卵母細胞における卵黄胞の出現と一致していた。STL1はさらに,卵膜と胚胞中央部にも検出された。卵黄胞に存在するSTLは,受精後,回卵腔に移動すると考えられ,孵化によってSTLレベルが急激に低下することと一致する。回卵液は発生の際,胚の保護に重要な役割を果たしており,STLは防御因子として働いていると考えられる。これを確認するために,シロサケ卵レクチン(CSL)と微生物との相互作用を検討した。グラム陽性菌,酵母及びカビでは,CSLによる凝集作用は観察されなかった。グラム陰性菌である大腸菌やせっそう病菌などの魚病細菌は凝集され,ラムノースの添加によって凝集阻害がみられた。しかし,CSLには静菌活性や抗菌活性はなく,オプソニン様の作用で生体防御に関与すると考えられる。また,マルタ,ウグイ,アユ及びニシンなどの,サケ科以外の魚種における新規動物レクチンファミリーの存在も確認し,それらの生化学的性状を明らかにした。
|