研究概要 |
脊椎動物の主要な繊維性タンパク質であるI型コラーゲンは3本のα鎖(分子量10万)から構成されているが、多くの硬骨魚類ではα1鎖とα2鎖に加えて、他の脊椎動物には認められない固有のα3鎖を含む。すなわち、著者らは硬骨魚類I型コラーゲンの多くが3種の異なるα鎖を含むヘテロトリマーを形成していることを報告してきた。一般にタンパク質の構造と機能の解明にはアミノ酸配列の情報が必須であるが、魚類I型コラーゲンに関しては著者らが報告したニジマスI型コラーゲンの部分的な研究があるのみで、不明な点が多い。本研究ではニジマス鰭由来の繊維芽細胞からcDNAライブラリーを作成し、3種のプロα鎖cDNAをクローニングして全一次構造を明らかにした。その結果、プロα1、プロα2およびプロα3は各々1449,1356および1458アミノ酸残基から成り、三重らせん領域に特有のGly-X-Yの繰り返し配列はヒトと同じ338回が認められた。高等脊椎動物に比べてニジマスでは、各α鎖のGly-Glyの繰り返し配列が多く存在するという特徴を持ち、一方、熱安定性を付与するGly-Pro-Pro配列は少なかった。特に、Gly-Gly配列はプロα3に著しく富み、三重らせん領域にはヒトに比べて、12倍以上の繰り返しが認められた。これらの特徴はニジマスI型コラーゲンの示す低い熱安定性に大きく影響していると考えられる。ニジマスの各プロα鎖間において、プロα3はプロα1およびプロα2と各々73%および56%の相同性を示した。また、ニジマスI型コラーゲンとヒトの繊維性コラーゲンの配列を用いて近隣結合法によって系統樹を作成したところ、硬骨魚類に特有のα3鎖はα1鎖から分岐したことが強く示唆された。本研究は魚類I型コラーゲンの全一次構造を明らかにした世界で最初のものであり、今後における魚類コラーゲンの代謝、機能などの研究に多大の寄与をするものと期待される。
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