研究課題
宇沢弘文によれば、制度資本はさまざまな社会的共通資本を管理する社会的組織のあり方、すなわち水利システムのハードを支えるソフトウエアーのストックと定義される。本研究の目的は、農業用水資源のさまざまな経済問題を日本農業・農村の実態に照らして経済分析し、これまで蓄積されてきた制度資本の役割を考察し、日本的な水資源管理システムの可能性を明らかにすることである。本年度は、北海道の旭川、旭鷹土地改良区における農業用水利用管理システムと秋田県の六郷町における七滝土地改良区の地域用水利用システムを調査した。旭鷹土地改良区では大規模な専業稲作地帯にGIS(地理情報システム)を導入し、土地改良区内の農地と水資源に関する情報活用の方法を模索している。一方、六郷町は水郷の里(湧水)として有名であり、農業用水利用と地下水位のバランスが密接に関連する特異な扇状地の構造をもっている。95%の世帯が生活用水として地下水を利用している。七滝土地改良区は300年以上の歴史をもつ慣行水利権を所有し、250haの水源涵養林を所有する点で全国的にも珍しい土地改良区である。水循環を保つために、七滝土地改良区は冬期間にため池の余剰用水を地下水涵養「水田」に供給することによって地下水位を保っている。冬季の水使用のために六郷町は60万円の費用負担をしているが、土地改良区と町とが協力して、さまざまな方法を採用し、低コストで水循環機能を維持している。土地改良区の経済的役割、農村制度資本の多面的機能の分析、制度資本の蓄積と分配問題、農業・農村におけるスチュワードシップの重要性、混住化の影響、減反政策の影響、自然環境の復元への寄与の評価について、多くの示唆を得た。
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