研究概要 |
山地畜産を軸とした持続的アグロフォレストリ・システムの確立を目指して経済学,土壌学,生態学の各分野からアプローチを試みた.このアグロフォレスリ・システムでは空間創出や土壌保全機能を重視しており,そのためにはシバの利用が最も適していると予想される.そこで,島根県大田市の三瓶山周辺を対象にシバの展開が土壌,生態,景観および社会にどのような影響をあたえるかについて分析した.また,シバを用いた山地畜産が発展するための社会システムを併せて検討した. まず,土壌分析からは,造成シバ草地は造成後20年後には表層にルートマット,深さ20cm程度に牛の踏み固めによる硬盤層ができること,また,この間に粒状構造が発達し,透水,排水,保水などの物理環境が大幅に改善されること,さらに,化学的には貧栄養な土壌となるが,好適な物理環境のもと,微生物相が変化して,貧栄養でも安定な土壌生態系が構築されることが明らかになった. 生態系・景観の分析からは,シバ地放牧はすでに希少種となったオキナグサやサギソウなどの家畜が嫌う植物の保全機能があるほか,半自然の景観が快適なアメニティ空間を供給し,水田とともに緑のオープンスペースを作り出していることが明らかになった. 経済的分析では,仮想旅行費用法により島根県三瓶山を草原化した場合の景観の価値の増加分を評価した.島根・広島両県住民のアンケート結果を基にした試算から評価額は約410億円と推定された。また方程式推定の際、診断検定によってモデルの病理現象や標本の歪みの影響を調べてモデルを補正し、より客観的な結果を導いた。 いずれの結果もシバ地型のアグロフォレストリの拡大を支持するものであった. 三瓶山一帯には古くから入会地が展開しており,今後,山地畜産を一層発展させようとすれば,まず,この入会権を巡るトラブルを整理しなければならない.また,地元だけでなく国も取り込んだ新たな支援システムの確立が必要である.
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