研究概要 |
本研究では,インタクトのトマト果実の肥大生長,蒸散,呼吸のオンライン計測システム,さらに小果柄を通る師管液フラックス,道管液フラックス,光合成産物の転流フラックスの計測手法を確立し,果実への物質集積に対する環境作用の機作を解明することを目的としている.本年度は,果実の水収支に対する光,気温,水ストレスおよび塩ストレスの作用などに関して下記の結果を得た. 1.小果柄を通る汁液フラックスの約80%が果実の肥大生長に寄与し,約20%が顎,小果柄,外果皮からの蒸散によって散逸した. 2.果実に集積した汁液フラックスの約70%が師管液,約30%が道管液であった. 3.果実生長,糖の転流の75%程度が明期中にもたらされ,明期に果房周辺の気温を高めることによって,果実の呼吸とともに著しく促進された. 4.果実内の貯蔵細胞への糖の輸送(post-phloem transport)が果実の呼吸に依存し,明期の果実生長および果実への師部輸送を律速しうることが,インタクト果実において初めて実証された. 5.水ストレスによって,葉の光合成だけでなく,果実の呼吸も抑制され,果実の生長および汁液フラックスが減少した. 6.水ストレスによる汁液フラックスの減少は,師管液では40%の減少にとどまったのに対し,道管を通しては流入に匹敵する逆流が生じ,小果柄の道管の双方向性が初めて定量的に実証された. 7.塩ストレスによる師管液フラックスの減少はわずかであったが,道管液フラックスは34%減少し,それによって,師管液フラックスの割合が高まるとともに,果実の肥大生長が抑制された. 8.高品質トマト生産の栽培条件下でみられる果実の小果高糖度化および尻腐れの因果関係を定量的に立証した.
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