研究概要 |
体外において精子に受精能獲得を誘起する目的で,4頭の成熟種雄豚から採取した射出精子を45〜240分間インキュベートした。インキュベーションの前および後の精子試料から調製した抽出液をSDS-PAGE・ウエスタンブロッティングに供し,得られた検出像を用いてデンシトメーター画像解析を行った。その結果,インキュベーション45分後にAnti-Agglutinin(AA)の検出量はインキュベーション前の試料の45%まで急激に減少したが,それ以後のインキュベーションに伴う検出量の減少は緩慢になった。また,精子浮遊液に精漿(5%,V/V)を添加した場合には,インキュベーションに伴うAA検出量の減少は有意に制御された。間接蛍光抗体法での観察結果によると,インキュベーション前の精子の多くではAAは先体にほぼ均一に分布していた。しかしインキュベーション45分後および90分後には,AAが先体において部分的に検出される精子が著しく増加し,インキュベーション180分後および240分後になるとAAが先体の輪郭部分にのみ検出されるか,あるいは全く検出されないような精子も観察されるようになった。また,精子浮遊液に精漿を添加した場合には,インキュベーションに伴う精子先体からのAAの消失は軽減された。クロロテトラサイクリン染色法での観察結果によれば,インキュベーション90分後までは多くの精子が受精能獲得途上にあったが,インキュベーション180分後になると半数近くが受精能獲得を完了していたと推定される。また,精子浮遊液に精漿漿を添加するとインキュベーション180分後に受精能獲得を完了した精子の割合は有意に減少した。以上の結果から,ブタ精子結合AAの多くは受精能獲得過程の初期段階において精子先体から解離すると結論される。
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