鶏精子の温度による可逆的な不動化現象は、細胞内の情報伝達機構を経由して、タンパク質のリン酸化-脱リン酸化によって制御されていると考えられる。しかし、どのタイプの脱リン酸化酵素(PP)が関与しているかについては、これまで全く明らかにされていない。そこで本実験では、プロテインホスファターゼ活性化剤であるC2-Ceramide及びC6-Ceramideを用いて、鶏精子の運動性とATP濃度に及ぼす影響を検討した。 0〜1μMの試薬を添加して10分後の正常精子及び除膜精子の運動性は、30℃及び40℃ともに、添加濃度の差異による明らかな影響は認められなかった。40℃では運動はほぼ抑制されていた。正常精子に1μMの各試薬を添加して、その後2mMのCa^<2+>を加えると、30℃においてはいずれも活発な運動性を示した。40℃では抑制されていた運動がCa^<2+>添加後に回復したが、両試薬を加えると徐々に抑制された。同様の傾向は、2mMのCa^<2+>を添加し、その後にCeramideを加えても認められた。Ca^<2+>の代わりに、プロテインホスファターゼの阻害剤であるカクリンA(100nM)を加えた場合もほぼ同じ傾向を示した。C2-Ceramide及びC6-Ceramide添加後の正常精子のATP濃度には無添加の対照区と比較して差異は認められなかった。除膜精子に100nMのカリクリンAを添加して、その後Ceramideを加えると、30℃では、対照区と同様に高い値を維持していた。40℃では、対照区及び試薬添加区では抑制されていた運動性がカリクリンAの添加により回復し、その後も維持した。以上の結果から、C2-Ceramide及びC6-CeramideはATP合成を行う呼吸代謝系には関与しておらず、むしろ別の部位に作用して、最終的に鞭毛の動きを抑制していると考えられた。その作用部位は、軸糸あるいはそれに付随している細胞骨格系ではなく、細胞膜あるいは細胞質と推測された。
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