排卵数の決定機構は生殖過程の中でも極めて重要であるにもかかわらず、その仕組みの詳細は未だ不明である。その鍵を握るのは、卵胞顆粒膜細胞の生死の制御と考えられる。当研究室では、顆粒膜細胞初代培養系を用い、卵胞の発育・成熟を司る卵胞刺激ホルモン(FSH)による、細胞内因子・MAPキナーゼの一つERK(Extracellular-regulated kinase)の活性化が、卵胞発育に伴い、cAMP依存型から非依存型ヘスイッチすることを見出した。本研究では、そのスイッチングの仕組みと意義、さらにESHによるMAPキナーゼ活性化経路に関して以下の知見を得た。 1.卵胞発育に伴い血清成分が卵胞内に流入し、血清に多く含まれるリゾホスファチジン酸(LPA)が、FSHのシグナリングスイッチングを誘導することが分かった。 2.未成熟卵胞では、FSHによるERK活性化はcAMP依存的であるが、未成熟、成熟卵胞共に過去の文献と異なり、FSHによるERK活性化にはホスフォリパーゼC(PLC)の活性化が不可欠であることが明らかとなった。 3.分化した顆粒膜細胞ではcAMPは生存には必要なく、むしろ細胞死を誘導する方向に作用した。 4.FSHによる顆粒膜細胞の生存には、MAPキナーゼのうち、ERKとp38の両方のMAPキナーゼ活性化が不可欠であった。また、興味深いことに、顆粒膜細胞の細胞死にもp38の活性化が関与していたが、生存にはp38aが、細胞死にはp38bが働くことが明らかとなった。 以上より、卵胞の成熟には、FSHのcAMPを介した作用が必要であるが、成熟した卵胞ではFSHによるcAMPの作用はむしろ顆粒膜細胞の生存には好ましくなく、これに対抗して、cAMP非依存的なERK活性化経路を獲得すると考えられる。
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