研究概要 |
本年度はまず、細胞増殖の制御、動物体の大きさに関与するとされるTGF-βスーパーファミリーの新規のシグナル伝達因子であるSmadファミリーのうち、Smad3のクローニングとその発現部位をマウスにおいて行った。その結果、塩基配列より予想されるアミノ酸配列において、マウスSmad3はヒトSmad3と99.3%、またマウスSmad2とは85.4%のホモロジーを示した。各臓器におけるマウスSmad3の分布をノーザンブロット法により解析した結果、精巣ではそれほど高い発現は認められず、脳と卵巣において高い発現が確認された。さらにin situ hybridization法を用いて脳と卵巣におけるSmad3 mRNAの局在を検討した。その結果、脳では海馬歯状回の錐体細胞、大脳皮質の顆粒層細胞、卵巣では卵胞上皮細胞において強い発現が観察された。これらの成果はJ.Vet.Med.Sci(Kano et al.,61:213-219,1999)に公表した。次に短日飼育条件下で精巣が著しく退縮し、精子発生不全となるハムスターを用いて、正常な精子発生が行われている長日飼育条件下の精巣をコントロールとして、Smadファミリーの発現を検討した。その結果、短日条件下のハムスター精巣において、Smad2,3,4とも精祖細胞および精母細胞において発現が見られた。コントロールとの比較においては、発現量はSmad2についてはほぼ変わらず、Smad3はかなりの上昇を示し、またSmad4は徐々に上昇していた。特にSmad3はコントロールでは発現が確認できないほど微弱だが、短日条件下精巣においては発現の上昇が著明で、Smad3は精細胞の制御に関して重要な機能を有することが示唆された。Smad2とSmad3は、その予想されるアミノ酸配列からその機能の類似性が推測されていたが、今回の発現パターンの違いから精巣での機能に差異があることが示された。
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