研究概要 |
ウシ小型ピロプラズマ症はTheileria sergenti原虫の赤血球内寄生による貧血および発熱を主徴とする疾病である。本原虫は宿主体内で巧みに免疫を回避している事ならびにダニ体内で有性生殖により組み換え等をおこし遺伝的多様性を獲得している可能性などにより制圧が困難となっている。本原虫のピロプラズム表面には分子量32kDaのピロプラズム主要表面蛋白質(MPSP)が発現しており、宿主免疫の標的となっている。MPSPは遺伝的・抗原的多型性がありそれが本原虫の持続感染に関連しているのではないかと考えられている。 これまでにT.sergenti原虫染色体は4本に分離されることを明らかにし、原虫遺伝子(p23,p32,HSP70など)の染色体マップを行ってきた。本研究はタイレリア原虫の遺伝的多様性を解析する目的で原虫遺伝子の解析が最も進んでいるT.parvaでまず解析を行いその結果をT.sergentiに利用しようと考え、ケニアのILRI研究所と共同研究でT.parvaの遺伝子解析を行った。まず手始めにT.parvaで形質転換したウシT細胞株で発現しているexpressed sequence tags(ESTs)の解析を行った。その結果394cDNAクローンの塩基配列を決定しGene Bankのデーターベースとの相同性を比較した。141クローンはデーターベースとのデーターと相同性を示し、このうち47クローンはヒトの配列と、19はウシの配列と相同性を示した。126クローンはいずれとも相同性を示さず新しい遺伝子と考えられる。 次にシゾントのステージの原虫で発現している原虫遺伝子についてEST解析を行った。461cDNAの塩基配列を決定し、これをT.parvaの4本の染色体上にマップした。20クローンは33 Sfil断片にマップされた。この解析結果は単にT.parvaの遺伝子解析のみならずタイレリア原虫全般の遺伝子解析に重要な知見を提供している。
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