研究概要 |
イノシトールリン脂質シグナル関与キナーゼの機能は、リピドホスファターゼにより精密に制御されている。よってその代表の一つのイノシトール環5位を脱リン酸化するSHIP2(SH2 domain含有5-ホスファターゼ)のmRNAの脳内遺伝子発現局在を精査して関連キナーゼの局在と比較検討した。先ずラットのcDNA塩基配列を初めて明らかにしてジーンバンクに登録し、それを基にこの遺伝子発現は遺伝子組織化学的に解析したところ、胎生期脳の脳室胚芽層に最初に明瞭に検出された。生後発達が進むにつれてこの発現は白質に明瞭となり、灰白質には有意の発現を示さなかった。白質での発現パターンからオリゴデンドロサイトがその責任細胞であると示唆された。一方、脂質性セカンドメッセンジャーのホスファチジン酸産生に与かるphospholipase D(PLD)の既知2アイソフォームの脳内遺伝子発現局在も精査した。その結果、PLD1とPLD2いずれも胎生期脳室胚芽層に有意の発現を示すが、脳灰白質には生後早期に一過性にPLD2だけが弱く発現するだけで、生後成獣まで主要発現部位は白質であった。その発現パターンから、PLD1についてはオリゴデンドロサイトが、PLD2ではアストロサイトが発現責任細胞であると示唆された。白質即ちグリア細胞にこれだけ有意な発現を示すシグナル分子が3種も見出されたのは、これまでに無く異例である。グリアでのシグナル機構の解析に有用な一歩を示した。脂質シグナル関連キナーゼの代表であるProtei kinase C(PKC)の既知アイソフォーム全10種の発達期と成熟期での脳内遺伝子発現局在をも詳細に解明した。その結果、胎生期脳ではPKCε,μ,λ,ζの4種だけが有意発現をしめし、そのうちで脳室胚芽層にはμ,λだけが発現された。もう一つの胚芽層である小脳外顆粒層でμ,λに加えてβの発現も認められた。生後発達過程では、δ,μθが脳の各々限られた領域にだけ発現されるがその他のアイソフォームは灰白質に広く多様に発現されていた(J.Mol.Neurosc印刷中)。
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