高次脳機能の発現のためには、まず胎生期においてさまざまな性質を有する多数のニューロンが生み出され、正確に細胞体が配置され、軸索がそれぞれ特異的な領域へ投射することにより統合された回路を形成する必要がある。近年このような初期のニューロンの配置と回路形成が脳の分節的構築を基盤としていることが明らかになりつつある。脳の分節的構造は単に形態的な単位であるばかりでなく、多数の形態形成遺伝子やシグナル分子の発現領域にも一致することが報告されている。脳の領域特異的に発現する遺伝子の中で転写因子をコードするPax6遺伝子は前脳P1〜P4領域の背側、および菱脳・脊髄の腹側に発現することが分かっている。本研究では実験発生学的手法と分子形態学的手法を駆使することにより、Pax6の神経発生に対する役割、すなわち脳分節形成・維持、神経細胞の分化、および軸索伸長に対する機能を解析することを目的としている。 本年度は以下のような研究成果が得られた。 1)マウス胚全胚培養下で神経上皮細胞の標識と追跡を行うことにより、終脳分節形成様式を細胞レベルで解析した。これによって大脳皮質/線条体境界が形成される時期が明らかになった。 2)大脳皮質/線条体境界形成過程においてcadherin6およびRcadherinが排他的な発現をしていることが分かった。 3)全胚培養系と電気穿孔法による遺伝子導入系を用いて、大脳皮質/線条体境界形成過程においてcadherin6およびRcadherinの排他的な発現が重要であることを証明した。 4)Cadherin6ノックアウトマウスにおいて神経上皮細胞の標識と追跡を行ったところ、大脳皮質/線条体境界は形成されるが、線条体原基における神経上皮細胞の移動が亢進していることが分かった。
|