研究概要 |
近年の遺伝子工学技術の発達により,ある遺伝子が発現しないノックアウトマウスや過剰発現するミュータント系マウスが作出され,形態形成に関する遺伝子の役割が明らかにされつつある。一方,自然発生ミュータント系マウスの遺伝子解析から,新しい形態形成関連遺伝子も多数発見されている。しかし,これらのミュータント系マウスの表現型,とくにその形態の記述は十分とは言い難い。本研究はミュータント系マウスを材料に,その形態的表現型を,胎仔から成獣に至るまで,種々の形態学的方法を駆使して詳細に記載し,遺伝子のはたらきの全体像に迫ることを目的とする。平成11年度にはアリール炭化水素受容体ノックアウトマウス(Ahr-/-)とメロメリアマウス(mem,自然発生)を対象に解析した。Ahr-/-は外観は一見正常で,雌雄とも生殖能力もあるが,加齢とともに脊柱背彎と脱肛を呈する個体が増加する。脊柱のアリザリン赤S染色透明骨格標本の観察では,尾方胸椎で椎体腹側頭尾縁ででの骨棘形成,癒合,椎間円板腹方部や腹側縦靭帯内の異常骨化が観察された。脱肛や頚部皮膚のびらんと合わせ,これらの変化は早期老化の現れではないかと疑い,検索中である。また,内臓では肝臓の尾状葉の発達が野生型に比べて悪く,Ahr遺伝子が肝臓の形態形成にも関与している可能性が示唆された。mem/memは無肢から多指に至る多彩な四肢奇形を示すが,掌蹠パッドの観察から,四肢の腹側構造が背側化していることが明らかになった。全載インシツハイブリダイゼーション法で検索したところ,肢の腹側化に働くとされるEn-1遺伝子の発現域は縮小し,背側化に働くとされるWnt-7aの発現域は肢芽の先端を越えて腹側に拡大していた。現在四肢以外での形態異常を検索中である。
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