心筋L型Caチャネルについて、リン酸化制御にかかわる細胞内Mg^<2+>の役割を示してきた。つまり、通常(脱リン酸化時)は細胞内に多量に存在するMg^<2+>がCaチャネルの活動を抑えているが、β受容体刺激の信号を受けると、これに反応してA-kinaseのリン酸化が促進される。その際、細胞内Mg^<2+>による抑制が失われCa電流が増大するという機序を新たに提唱した。本研究ではリン酸化によるこのような制御を発揮する機構の解明を分子的に示せる程度まで行おうとしている。そのために最終的にMg^<2+>の結合部位を分子的に同定することを目標としている。 初年度においてはアミノ酸の1つであるcysteineを特別に攻撃する薬剤を使用し、電流増大機構が細胞内側のcysteine残基と関係が有ることを突き止めた。この電流増大機構はMg^<2+>の電流制御機構と少なくとも一部を共有している可能性が高く、Mg^<2+>による制御の分子機構解明に重要なヒントを与えた。この結果はEuropean-Journal of Physiology Pflugers Archiv(in press)に発表された。ところでこの細胞内Mg^<2+>による制御はもっぱら、カエル心室筋において研究されてきた。その理由は哺乳類の心筋細胞においてはMg^<2+>による電流制御がはっきりと観察されなかったことにある。ではこの現象は両性類の心筋特有の現象なのであろうか?本年度はこの問題に取り組み、以下のような成果が得られた。モルモット心室筋においてはやはり、室温での環境では細胞内を低Mg^<2+>にしても電流の増大が認められなかった。ところが温度が28℃以上であると、温度依存性にMg^<2+>の効果が見られた。この現象はカエル心筋で見られた性質とほぼ一致した。したがってMg^<2+>によるL型Ca電流の制御は普遍的に見られるメカニズムであると考えられた。またモルモット心筋のL型Caチャネル分子のアミノ酸配列は既に明らかとなっているので、このことによってまた昨年の成果とあわせ、ターゲットとなるMg^<2+>作用部位の範囲を絞ることができた。今後、ターゲット部位のアミノ酸置換などの手法を用い、更に詳細な研究が可能となった。
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