合計すると我が国死因の第1位となる血管病(心筋梗塞や脳卒中など)の原因として、血管平滑筋のCa^<2+>非依存性収縮(すなわち、[Ca^<2+>]i増加の程度だけでは説明できない異常に大きな収縮)による血管の緊張異常が注目されている。このCa^<2+>非依存性収縮を引き起こすメカニズムを解明し、また、その機能分子を同定することによって、死因第1位である血管病の予防法や治療法を早急に開発することが、国民衛生上の最重要課題である。 したがって、本研究の目的は、申請者らが独自に開発した分子細胞生理学的手法を駆使して、1)血管平滑筋のCa^<2+>非依存性収縮を引き起こす情報伝達因子の相互関係、およびそれらの上流・下流の情報伝達機構(因子)を明らかにすること、2)血管平滑筋のCa^<2+>非依存性収縮を特異的に抑制する新規の細胞内情報伝達因子の同定・クローニングを行い、3)これらの情報伝達系のヒトにおける生理的・病態的役割について明らかにすること、その細胞内情報伝達機構を明らかにすること、にある。 初年度は、Rhoキナーゼとスフィンゴ脂質の相互関係について、以下のような結果を得た。スフィンゴ脂質は、1)インタクト血管平滑筋において、[Ca^<2+>]i増加の程度以上の大きな収縮を引き起こし、2)スキンド(細胞膜に穴を開けた)血管平滑筋において、GTPが無い状態でもCa^<2+>非依存性収縮を引き起こした。これらのスフィンゴ脂質によるG蛋白非依存症・Ca^<2+>非依存症収縮は、Rhoキナーゼ阻害薬によって、抑制されたが、Cキナーゼ阻害薬では抑制されなかった。以上の結果より、スフィンゴ脂質は、Rhoキナーゼの活性化を介してCa^<2+>非依存性収縮を引き起こす細胞内情報伝達因子であることが示唆された。また、このスフィンゴ脂質/Rhoキナーゼ情報伝達系は、Cキナーゼ系とは異なる経路であると考えられた。さらに、スフィンゴ脂質は、内皮細胞においては、[Ca^<2+>]i増加とNO産生を引き起こし、内皮依存性に血管を弛緩させることも解った。
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