本研究は、プロスタノイド受容体欠損マウスを用い、循環器系でのプロスタノイドの生理的・病態生理的役割の解明を目指した。まず、マウスを用いた解析系を確立した。 1.in vivo解析系 a.心肥大モデル:横行大動脈の狭窄により、心肥大・線維化が安定して観察された。 b.急性心筋梗塞・心筋リモデリング:冠動脈左前下行枝の結紮により、急性心筋梗塞モデルや、右室肥大・線維化を伴う心筋リモデリングの系を作成した。 c.血管内膜肥厚:総頚動脈結紮や大腿動脈周囲のカフ留置により、著明なneointimaの形成を伴う内膜肥厚モデルを作成した。 d.血栓・塞栓形成:アラキドン酸やコラーゲン/エビネフリンによる、致死モデルを確立し、肺の細動脈での血栓形成の定量化を行った。 e.血圧:血圧はTail Cuff法や頚動脈内カテーテルにより測定した。また、食塩負荷のプロトコールを確立し、低酸素下で肺高血圧を誘発した。 2.in vitro解析系 a.マウス胎仔心筋細胞培養系:マウスの胎仔より心臓を摘出し、心筋と非心筋細胞を別々に培養する系を確立した。 b.摘出潅流心臓解析系(Langendorff法):マウスの摘出心臓を定圧潅流し、心機能、収縮力、冠潅流量などが測定可能な系を確立した。 c.大動脈平滑筋培養系:大動脈からのexplant法により、平滑筋培養法を確立した。 d.血小板凝集:多血小板血漿洗浄や血小板浮遊液を用いた血小板凝集法を確立した。 本研究により、多くの循環器系での解析系が確立された。特に、実際の疾患で見られる病態に即したモデルが確立された点は、今後の研究を遂行するうえでその意義は大きいと考えられる。 また、これらの系を用いた解析により、心臓の虚血・再潅流障害、圧負荷に伴う心肥大・心線維化、血管リモデリング、血圧調節、血小板機能調節などにおけるプロスタノイドの新たな役割を見出した。
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